遷延性意識障害の基礎知識

hanya.jpg遷延性意識障害(せんえんせいいしきしょうがい)とはどんな後遺障害ですか?

 

 

02dog.jpg遷延性意識障害とは,いわゆる植物状態とも言われる重度の昏睡状態のことをいう。

日本脳神経外科学会では,以下の6項目が治療にも関わらず3か月以上続いた場合を遷延性意識障害と定義している。

1.自力移動が不可能である。
2.自力摂食が不可能である。
3.糞・尿失禁がある。
4.声を出しても意味のある発語が全く不可能である。
5.簡単な命令には辛うじて応じることも出来るが,ほとんど意思疎通は不可能である。
6.眼球は動いていても認識することは出来ない。

shikushiku.jpg交通事故の後遺障害の中でも,最も重篤な後遺障害と言えますね。

 

 

01dog.jpgそのとおり。自賠責の後遺障害等級としても,常時介護を要する最重篤の後遺障害として,ほとんどが別表第一第1級1号で認定される。本人の損害もさることながら,常時介護を余儀なくされる家族の肉体的・精神的負担も甚大なものとなる。

 

hanya.jpgだからこそ,その甚大な損害に見合った賠償金を勝ち取らなければならないのですね。

どんなことが争点となりますか?

 

03dog.jpg代表的な争点としては,後遺障害逸失利益との関係で生活費控除が,将来介護料との関係で在宅介護の蓋然性余命制限定期金賠償などが問題となる。これらの争点の他にも,住宅改造費,車両改造費,将来ベッド・車椅子費,将来雑費,近親者慰謝料など,緻密な主張・立証が必要な多数の損害を請求することになる。

遷延性意識障害の事案では,交通事故に専門的に取り組む弁護士とそうでない弁護士とでは,獲得する損害賠償額が何千万円も違ってくることも珍しくないので,必ず交通事故専門の弁護士に依頼すべきだろう。

遷延性意識障害の争点1 〜生活費控除〜

hanya.jpg生活費控除というのはどういう争点ですか?

 

 

02dog.jpg生活費控除は,通常は死亡事案での逸失利益算定で問題となる概念だ。逸失利益とは,仮に交通事故がなければ得られたはずの被害者の将来収入のことをいうが,死亡事案では本来費消したはずの将来に渡る生活費を費消しなくなる点が後遺障害事案とは異なる。

つまり,死亡事案では,後遺障害事案と異なり生活費を費消すべき被害者が亡くなっているので,費消しなくなった将来の生活費分を控除して逸失利益が算定される。

 

hanya.jpg遷延性意識障害は死亡事案ではなく後遺障害事案ですよね。それなのになぜ生活費控除が争点となるのですか?

 


01dog.jpg遷延性意識障害の逸失利益算定の際に生活費控除すべきと主張してくる加害者側(保険会社側)の理屈を簡単に言えば,「遷延性意識障害者は寝たきりなので,将来に渡る生活費は健常人より少なくて済む。」というものだ。

 

aryarya.jpgそれが認められたら遷延性意識障害者の逸失利益は大きく減ってしまいますよね。そんな主張を裁判所は認めるものなのですか?

 

03dog.jpg遷延性意識障害者の生活費控除に関しては,東京地裁民事第27部(交通専門部)は消極説(否定説)に立っているし,他の裁判所も否定説が多数だ。こうした判例も踏まえて,保険会社側の主張に的確に反論していく必要がある。

遷延性意識障害の争点2 〜在宅介護の蓋然性〜

hanya.jpg在宅介護の蓋然性とはどういう争点ですか?

 

 

02dog.jpg一般的に,遷延性意識障害者は,症状固定後においても医療機関への入院を継続している場合が多い。そのため,被害者側が在宅での介護を前提に将来介護料を請求すると,加害者側(保険会社側)から医療機関・施設における介護を前提にすべきとの主張を受けることがある。すでに在宅介護を行っている場合ですら,在宅介護は不適当なので施設介護を前提にすべきと主張してくる場合もある。

 

hanya.jpg加害者側がそのような主張をする意図は何ですか?

 

 

01dog.jpg医療機関での施設介護を前提とした場合,在宅介護を前提とした場合よりも将来介護料が遥かに低額になるからだ。

 

hanyaa.jpgやはり,賠償額を下げたいという保険会社側の強い意図があるのですね。

 

 

03dog.jpg被害者側としては,在宅介護の蓋然性を徹底的に主張・立証する必要がある。そもそも遷延性意識障害に陥らせた加害者側が「遷延性意識障害だから施設に縛り付けておけ」というに等しい主張をすること自体が極めて身勝手な理屈と言える。

在宅介護の蓋然性を含め,訴訟における将来介護料の主張・立証には独特のノウハウが必要なので,交通事故訴訟に精通した弁護士選びが大切になるんだ。

遷延性意識障害の争点3 〜余命制限〜

hanya.jpg余命制限とはどういう争点ですか?

 

 

02dog.jpg将来介護料や将来雑費などの算定では平均余命が用いられる。

遷延性意識障害者は,その余命が健常人の平均余命よりも短い統計があるとして,将来介護料や将来雑費の算定では健常人の平均余命ではなく遷延性意識障害者の平均余命を用いるべきだと加害者側(保険会社側)が主張してくる論点だ。

 

aryarya.jpgその加害者側の主張が通ったら,どれくらい損害額が下がってしまうのですか?

 

 

01dog.jpg例えば,20歳男子の平均余命は約60年だが,これが遷延性意識障害者であることを理由として余命を10年に制限された場合,ライプニッツ係数による中間利息控除(60年=18.9293,10年=7.7217)をして算出すると,将来介護費は健常人の平均余命を使用した場合の半額以下(18.9293分の7.7217。ただし,介護料年額を余命までの全期間同額で算出した場合)になってしまう。

 

punpun.jpgそんなに大幅に下がってしまうのですね。

しかし,そもそも遷延性意識障害に陥らせたのは加害者側なのに,その加害者側が「遷延性意識障害で余命が短くなったはずだから減額しろ」というのは腹立たしい主張です。

 

03dog.jpgまったくその通りだ。裁判例上は余命制限を採用しないのが多数派だが,これも説得力のある反論方法にノウハウがある。付け焼き刃の知識では各種の統計や論文を持ち出してくる保険会社側の主張を覆せない可能性があるので,やはり交通事故訴訟に精通した弁護士選びが大切になるところだ。

遷延性意識障害の争点4 〜定期金賠償〜

hanya.jpg定期金賠償って何ですか?

 

 

02dog.jpg余命制限の論点と関連するが,遷延性意識障害者の余命が短いことを理由に,将来介護料や将来雑費等の損害について,一時金賠償(訴訟終了後の一括払いによる賠償)ではなく,定期金賠償(定期的な分割払いによる賠償)が相当であるとして加害者側(保険会社側)がしてくる主張だ。

 

mutt.jpgそれも加害者側(保険会社側)に有利な主張なのですか?

 

 

01dog.jpg必ずしもそうでない面もある。定期金賠償であれば,一時金賠償のように中間利息控除の計算をしないので,健常人の平均余命以上に存命してその間の定期金賠償が確実に履行された場合などは,将来介護料や将来雑費などのトータルの金額は一時金賠償より高額になる可能性があるからだ。

 

hanya.jpgでは,被害者側も同意して,定期金賠償となる事案は多いのですか?

 

 

03dog.jpgいや,現在のところは極めて少ない。さんざん悩まされたはずの加害者側(保険会社側)との関わりを生涯継続しなければならなくなること,保険会社が経営破綻したら定期金賠償も不履行となる可能性があることなど,被害者側に大きなリスクも伴うので,ほとんどの被害者は定期金賠償など望まないからだ。

 

aryarya.jpg保険会社も倒産する時代ですから,何十年後にも確実に支払われるか分からないということですね。

被害者側が望まなければ,定期金賠償にされることはないのですか?

 

02dog.jpgその点は,処分権主義という民事訴訟の原則に関わる問題だ。簡単に言えば,請求する被害者側(原告)が求めていない定期金賠償を判決で認めてよいかの問題で,これに肯定的な立場を取る裁判官もいる。加害者側が定期金賠償を主張してきたら,説得力のある反論が必要となるよ

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