症状固定日

hanya.jpg保険会社から,そろそろ治療をやめて症状固定にしてほしいと言われています。症状固定,症状固定日ってなんですか?

 

02dog.jpg症状固定日とは,治療を続けていてもそれ以上症状の改善が望めない状態をいう。これは純粋な医学用語ではなく,損害賠償をする上で必要なために用意された賠償医学上の概念だ。対処療法で一時的に苦痛が和らいでも,また数日で元に戻ることを繰り返すような場合もこれにあたる。症状が良くも悪くもならない状態と理解すれば分かりやすいだろう。

 

hanya.jpgなぜ交通事故の損害賠償に症状固定という概念が必要なのですか?

 

 

03dog.jpg交通事故の人身損害に対する賠償は,大きく分けると「傷害に対する賠償」「後遺障害に対する賠償」がある。後遺障害が発生するような事故の場合,症状固定日以前に発生する損害を「害分」,症状固定日以降に発生する損害を「後遺害分」として分けるんだ。

例えば,働けなくなったことによる損害は,症状固定日前は傷害分の「休業損害」として賠償され,症状固定日後は後遺障害分の「後遺障害逸失利益」として賠償される。治療費と将来治療費,入通院慰謝料(傷害慰謝料)と後遺障害慰謝料も,それぞれ症状固定日によって区分けされる。

症状固定日によって区分けするという概念がないと,どこからどこまでをどのような算定方法で賠償金額を定めるか,明確な基準を作れず,ごちゃごちゃになってしまうんだ。

 

hanyaa.jpg保険会社からは,症状固定日後は治療費も休業損害も払えないと言われました。結局,症状固定なんて保険会社が支払額を減らしたいから持ち出してくるとしか思えないのですが。

 

01dog.jpg確かに,そういう面は否定できない。特に,後遺障害が発生しないと見込まれる事案では,症状固定後の「後遺障害分」の賠償はないから,とにかく早く症状固定させて治療費や休業損害の支払いを打ち切りたいと保険会社は考える。

後遺障害が発生する事案でも,早く症状固定させて後遺障害の認定手続に進み,全賠償額を早期に確定させたいと考えるのが保険会社の一般的な考え方だ。

 

aryarya.jpgでは,保険会社が症状固定しろと言ってきた場合,どうすればいいのですか?まだ治療を続けたいのですが。

 

02dog.jpgまだ回復途上の治療が続いているのであれば,保険会社にそのように伝えるしかない。ただ,医師は基本的に患者が治療を続けたいと言えば続けてくれるので,医師が治療を続けているという事実があるだけでは,最終的には保険会社は一方的に治療費の支払いを打ち切ってくる。

 

hanyaa.jpg

医師が症状固定にすると言っていないのに勝手に保険会社が判断するのはひどいと思います。どうしても保険会社に従わなければならないのですか?

 

 

03dog.jpg弁護士に依頼して当面の治療費支払いの継続を交渉してもらうことも一つの手だ。
しかし,その傷害に対する一般的な治療期間が経過し,実際の治療内容も保存療法やリハビリになり,今後も症状・治療内容ともに大きな変化がなく推移すると判断される場合,それはすでに「傷害に対する治療」ではなく「後遺障害に対する治療」になっているといえる。つまり,症状固定しているということになる。このような場合,弁護士に依頼したからといって症状固定のむやみな引き伸ばしはできない。後遺障害としての賠償を受ける段階になったのだと前向きに考えるべきだろう。

 

hanya.jpg結局,症状固定日が早ければ早いほど,保険会社に得で,被害者にとっては損になるのですか?

 

 

02dog.jpg必ずしもそうとは限らない。 真に回復途上の治療中なのに症状固定とされた場合,確かに保険会社は原則としてそれ以後の治療費など傷害分の損害を支払う必要がなくなる。

しかし,もっと治療を続けてから後遺障害認定手続に進めば軽度の等級認定となるべき傷病が,回復途上の時点ではより重度の等級が認定されてしまうことがある。 この場合,傷害分で安く済んだ分を遥かに上回る後遺障害分の賠償が必要になり,トータルの賠償額では保険会社側に損になる。

 

mutt.jpg必ずしも保険会社が症状固定を急がせてばかりというわけでもないんですね。

 

 

03dog.jpg基本的には症状固定を早めたいのが保険会社側の本音だが,先に説明したような総賠償額の逆転も起こりうるので,保険会社側が「まだ症状固定せず治療を続けてほしい」と要請してくることもある。 重度脊髄損傷,高次脳機能障害,偽関節の事案に多い。

ひどい場合,治療中は早く症状固定しろとうるさかったのに,後に訴訟で後遺障害の程度が争いになると「症状固定が早過ぎたのが原因で重度の後遺障害等級が認定された。もっと治療を続けてからの症状をもとに等級認定すべきだ」などと主張してくる保険会社もあるくらいだ。保険会社の担当者の経験が浅く目先のことしか考えていない場合,このような場当たり的な対応がなされる。

 

hanya.jpgなるほど。ところで,後遺障害診断書には症状固定日を記載する欄がありますが,医師が一度これに記載したらもう症状固定日は確定なのですか?

 

01dog.jpgいや。特に訴訟では,先の例のように妥当な症状固定日が改めて争われることも少なくないよ。たとえ担当医の記載した症状固定日でも,合理性がないと事後的に判断されれば,裁判官は当事者双方の主張・立証を踏まえて妥当な症状固定日を認定し,それに基づいて賠償額を算定することになる。 もっとも,医師の判断が一定程度尊重されることは確かだ。

 

自賠責保険に対する被害者請求権の時効

mutt.jpg自賠責保険に対する被害者請求には時効があり,それを過ぎると被害者請求ができなくなってしまうと聞いたのですが。

 

 

01dog.jpg被害者請求の消滅時効をまとめると以下の表のとおりだ。近年,法改正があり2年から3年に伸長されたが(自賠法第19条),3年の時効が適用されるのは平成22年4月1日以降に発生した交通事故に限られるので注意してほしい。 

 

 平成22年3月31日以前に発生した交通事故
 死亡による損害  事故日から2年
 傷害による損害  事故日から2年
 後遺障害による損害  症状固定日から2年
 平成22年4月1日以降に発生した交通事故
 死亡による損害  事故日から3年
 傷害による損害  事故日から3年
 後遺障害による損害  症状固定日から3年

aryarya.jpg時効の進行を止めることはできないのですか?2年や3年ではうっかりしていると過ぎてしまいそうです。

 

 

03dog.jpg保険金や仮渡金の支払いがあった場合などに時効は中断し,そこからまた3年(平成22年3月31日以前の事故は2年)の時効進行が始まるが,その他にも時効期間経過前に自賠責保険会社に申請して「時効中断承認書」をもらえば承認日に時効は中断される。被害者請求までに時間を要しそうなとき忘れずにする必要がある手続だ。

 

hanya.jpg一度,元の時効期間内に被害者請求をしていて,その結果が出てから異議申立をする場合はどうなるのですか?

 

02dog.jpg通常の実務上の運用では,自賠責保険会社は最初の認定結果の通知日又は支払日から3年(平成22年3月31日以前の事故は2年)以内であれば異議申立を受け付けているようだ。再度の異議申立をするときは,前回の異議申立結果の通知日又は支払日から3年(同)となる。ただし,このような実務上の運用は別として,異議申立自体に被害者請求の消滅時効の中断効があるか,支払がない場合に認定結果の通知日を新たに進行する消滅時効の起算日とする根拠はあるか,という点は問題になり得るため,念のため最初の時効の起算日から3年(平成22年3月31日以前の事故は2年)が経過する前に時効中断承認書をもらっておくに越したことはない。

加害者側に対する損害賠償請求権の時効

hanya.jpg加害者側に対しては,いつまでに損害賠償請求をしなければならないのですか?

 

 

02dog.jpg交通事故の損害賠償請求権の消滅時効は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年だ(民法724条)。時効の起算点については,特に「損害を知った時」が具体的にいつかが問題になるが,実務上は原則として以下の表のとおりの扱いになっている。事故日から20年経過しても損害賠償請求権は消滅する(除斥期間)

 

死亡による損害 死亡日から3年 
傷害による損害  事故日から3年(ただし症状固定日又は治癒日から3年として処理されることが多い) (注1)  
後遺障害による損害  症状固定日から3年 
物的損害  事故日から3年 

 

mutt.jpg傷害による損害の時効起算日が少し複雑ですが・・・。

 

 

01dog.jpg表の(注1)とした部分だね。傷害による損害は,事故日が起算日であるという解釈が最もシンプルで,通常はそう理解しておくほうが無難だ。しかし,その解釈だと特に後遺障害が残存した事案では,例えば事故日から4年後に症状固定してそれから3年以内(後遺障害による損害の時効期間内)に損害賠償請求をした場合,すでに傷害による損害部分は時効が完成していることになってしまう。

 

hanyaa.jpgそれは不都合ですね。後遺障害が残るかどうかも分からない時点で傷害による損害分だけ先に請求して,後遺障害が確定したら改めて後遺障害による損害分だけ請求しなければならなくなります。

 

03dog.jpgそのとおり。傷害分と後遺障害分を別々に請求しなければならなくなるとしたら,被害者側だけでなくそれに対応する加害者側や審理する裁判所にとっても著しく煩雑になってしまう。後遺障害による損害を請求できるようになってから傷害による損害と一括して請求するのが通常なので,少なくとも後遺障害が残存した事案では,実務上,傷害による損害分の請求についても時効の起算点を症状固定日と見て処理される場合が多い。 

 

hanya.jpg後遺障害が残存しなかった傷害事案の請求はどうなるのですか?例えば,事故から治療を続けて4年後に治癒して後遺障害が残らなかった場合とか。傷害分だけの請求だから時効の起算点は事故日で,すでに3年以上経過しているから時効にかかっていると判断されてしまうのですか?

 

02dog.jpg後遺障害が残存せず治癒した場合は,時効の起算点は事故日が原則だ。しかし,治癒したというのは治療を続けた結果だから,やはり治療の完了(治癒)までは事実上請求を開始することは難しい。そのため,後遺障害のない傷害だけの事案でも,後遺障害事案と同じく症状固定日(治癒日)を時効の起算点とする解釈も一応成り立つ。 ただし,後遺障害が残りうる傷害だったか否かという予見可能性の点も絡み争いとなる可能性が相当にあるので,事故日から3年と理解して行動しておいたほうが良い。

 

hanya.jpg自賠責保険に対する被害者請求の時効と同じように,時効が中断される場合はありますか?

 

 

01dog.jpg加害者側(加害者,加害車両の保有者,加害者の使用者,加害車両加入の任意保険会社)から損害の一部の支払いがあった場合や,賠償額の提示があった場合には,債務の承認となり時効は中断され,そこからまた3年の時効進行が始まる。 ただし,被害者請求により自賠責保険会社から自賠責保険金を受領することは,加害者側からの支払いとは同視されず,時効は中断されない。自賠責保険会社から「時効中断承認書」をもらっていても同様だ。 

 

aryarya.jpg自賠責保険の手続きをしているだけでは,加害者側との関係では時効は中断されないんですね。知りませんでした。 

 

03dog.jpgそこは最も注意を要する点だ。時効の問題は複雑なので,素人判断をせず早めに弁護士に相談したほうがよい。時効が完成すると時には数千万円,数億円という賠償金が得られなくなってしまうのだから,注意をしてし過ぎることはない。

ライプニッツ係数

hanya.jpg色々な損害費目の算定場面で「ライプニッツ係数」というのが出てくるのですが,これはどういうものですか?例えば,後遺障害逸失利益の算定方法は「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」とされていますが。

 

01dog.jpgライプニッツ係数とは,中間利息控除の計算を簡易に行うために用いられる係数だ。

 

 

aryarya.jpgそもそも中間利息控除が何かよく分かりません・・・。

 

 

02dog.jpg交通事故の賠償金というのは,基本的には解決時に一度に全額受け取るものだ。つまり,将来発生することが見込まれるが解決時にはまだ現実には発生していない損害(積極損害・消極損害)についても,その賠償額を現実の損害発生前に一時金として受け取ることになる。ところが,その金銭は賠償金受領時点では本来手に入らなかった(消極損害の場合),あるいは支出する必要のない(積極損害の場合)ものだ。すると,その本来手元になかったはずのお金を現実の損害発生時点まで利用できることになる。

 

mutt.jpgつまり,そのお金を預金や運用で利殖に用いれば,被害者は本来得られることのなかった利息を得られるということですか?

 

03dog.jpgそうだ。したがって,賠償時点での一時金としては予めその利息分を差し引いた金額にすべきだという考え方(中間利息控除)になる。言い換えれば,実際の損害発生時点まで利殖したときにちょうど本来の損害額になるように一時金の額を定めるということだ。

 

hanya.jpgどれくらいの利息がつくことを前提に中間利息控除がされるんですか?

 

 

01dog.jpg現在では年間5%の金利が複利でつくことが前提とされる。これを前提に中間利息控除の計算を簡易に行うために用いられるのがライプニッツ係数で,例えば後遺障害逸失利益の労働能力喪失期間が10年の場合,「基礎収入×労働能力喪失率×10年」ではなく,「基礎収入×労働能力喪失率×10年に対応するライプニッツ係数7.7217」と計算される。

 

hanyaa.jpg今のような低金利時代に年5%もの高金利がつき,しかも複利を前提とするなんて,おかしくないですか?それだけ多く差し引かれた金額が算定されるということですよね。

 

02dog.jpgその疑問はもっともだ。だが,民法で定められた法定利率が年5%であること,民事法定利率によるべきとする最高裁判決が出ていること(最判平17.6.14),交通専門部のある東京・大阪・名古屋の各地裁が複利計算(ライプニッツ方式)を採用するとの共同宣言を出していることから,現在ではほぼ全国的に「複利5%」を前提とするライプニッツ係数を用いた中間利息控除の算定がなされている。法的安定性や公平性,損害額の予測可能性などの点から,この実務的運用は現状やむを得ないものと言えるだろう。

同意書

hanya.jpg治療費を加害者の任意保険会社が支払ってくれることになり,診断書の取付や医師への意見聴取に関する同意書の提出を求められました。同意書の提出要求には応じなければならないのですか?

 

01dog.jpg原則として応じるべきだ。保険会社は何の根拠もなく治療費の支払いを続けることはできないので,傷害の内容・程度,治療内容とその妥当性を把握する必要がある。そのために病院から診断書・診療報酬明細書・画像・各種照会文書を随時取り付けるにあたり,患者(被害者)の同意書を病院に提出するわけだ。

 

aryarya.jpgできれば同意書なんて気持ち悪いので出したくないのですが。勝手に医師と相談されて治療方針などを決められたら嫌ですし。

 

 

02dog.jpg確かに,保険会社は病院から取り寄せた資料を自社の顧問医に検討させて症状固定の判断を行い,治療費の支払い打ち切りを申し入れるなどの行動をとる。しかし,だからといって同意書の提出を拒否すれば,最初から治療費の支払いを拒絶されることもあり得る。

 

punpun.jpgそんなのひどいと思います。

 

 

03dog.jpgその気持ちは理解できるが,治療費に限らず「保険会社から支払いを受けるには根拠がいる」ことは理解して欲しい。治療費に関してはその根拠を得るために病院に同意書を提出する必要があるというだけのことなので,特段の事情がない限り被害者は感情的にならず協力するべきものだ。


mutt.jpg

一度同意書を出したのに,また出せと言われたのですが・・・。

 

 

01dog.jpg同意書は基本的に病院ごとに作るので,複数の病院にかかるときは作成すべき同意書も複数になる。また,長期間の診療で同意書の日付が古くなった場合に,病院が新たな同意書を要求してくることがあり,同じ病院に何度も同意書を出さなければならないことがある。そうした事情をきちんと被害者に説明しない保険会社が悪いのだが,被害者としても「何度も同意書を提出しろなんて気に入らない」と感情的になることなく,冷静に応じて欲しい。

 

hanya.jpgそもそも,同意書を出さず治療費も全額自己負担して治療を続けて,最終的な損害賠償請求の段階で治療費を含めて請求するのではダメですか?そうすれば治療経過に保険会社を一切関わらせることなく進められる利点があると思うのですが。 

 

01dog.jpg治療費を自己負担して支払い続けられるなら,理屈上はそのやり方が可能だ。しかし,治療費の支払いがある度に「債務の承認」として時効中断されるメリットを受けられなくなること,治療状況を把握できない保険会社は休業損害等も内払いできないのが通常なので損害賠償請求段階まで長期間何の補償も得られなくなること,保険会社が即座に弁護士委任する可能性が高いこと,通常通り保険会社に治療費を支払ってもらえれば争点にもならないことまで損害賠償請求段階で争点となり紛争が意味もなく複雑化・長期化することなど,デメリットが非常に多い。特段の事情が無い限り,敢えて選択するやり方ではない。

健康保険その1

mutt.jpg保険会社から治療に健康保険を使って欲しいと言われましたが,加害者のせいで治療しなければならないのに自分の保険を使うなんて気分が悪いので,自由診療を続けますと答えました。これで問題ありませんよね?

 

01dog.jpg問題大有りだよ。

 

 

aryarya.jpgえっ,でも,どうせ治療費を払うのは保険会社だから,自由診療でも健保診療でも被害者には関係ないのでは?

 

 

02dog.jpgまず前提として,自由診療のほうが健保診療より高額になるというのは知ってるね。健保診療だと診療単価が1点10円なのに対して,自由診療は基本的に医療機関が自由に診療単価を決めることができ,1点20円や25円程度にしている場合が多い。

 

mutt.jpg自由診療のほうが高いのは何となく知っています。

 

 

03dog.jpg例えば,過失割合が被害者2:加害者8の事故で,1点20円の病院で自由診療を受けて200万円の治療費がかかったとしよう。当面は保険会社が病院に直接その全額を支払ったとしても,最終的に賠償金を確定する場面では全損害合計に過失相殺した残額から既払金全額を差し引くので,結局200万円の2割分である40万円は被害者が負担することになる。言い換えると,治療費200万円の2割分である40万円は本来被害者が負担すべき金額であるのに保険会社がその被害者負担分まで病院に支払ったのだから,その40万円は慰謝料などの他の損害にすでに支払ったものとして扱われるわけだ。

 

hanya.jpgその例では,健康保険を使っていたらどう変わるのですか?

 

 

01dog.jpg健保診療なら1点10円で100万円の治療費で済んだことになる。すると,健保の多くは患者の3割負担だから,病院は治療費100万円のうち7割分である70万円を健保に請求し,3割分である30万円を保険会社に請求し,保険会社がこれを支払うことになる。その後,通常の取り扱いでは,健保は自己の支払った分から被害者の過失分を差し引いた金額だけ保険会社に請求するので(これを「求償」という),この例では健保は70万円から被害者過失2割分の14万円を差し引いた56万円を保険会社に請求し,保険会社はこれを支払うわけだ。保険会社の総支払額は,病院に直接支払った30万円と健保の求償に対して支払った56万円の,計86万円になるね。

 

mumutt.jpgなるほど。100万円の治療費のうち保険会社は加害者過失8割分の80万円を負担する責任があったところ,86万円支払っているので,余分に払った6万円が賠償額確定の場面で精算されて他の損害に既に支払ったものとして扱われるわけですね。結局,治療費のうちの被害者負担額はその6万円になると。確かに自由診療での被害者負担額40万円に比べて格段に安くなっていますね。

 

02dog.jpgそういうことだ。被害者の過失割合が大きければ大きいほど,その差はより顕著になる。

 

 

健康保険その2

mutt.jpg健康保険その1の説明によれば,被害者無過失の事故なら自由診療でも問題ないわけですね。被害者の治療費自己負担額は元々0円ですから。

 

02dog.jpgいや,被害者が明らかに無過失でも健保診療とすべきだ。なぜなら,例えば治療が長引いた場合,いずれ保険会社は症状固定時期だとして治療費支払いの打ち切りを申し入れてくるが,そこには症状固定と言えるか否かの賠償医学的な判断だけでなく,それまでの累積治療費額の多寡も関係してくる。要するに,累積治療費が健保診療で100万円の場合より,自由診療で200万円の場合のほうが,保険会社としてはより出費が嵩んでいるので支払いを打ち切りたくなる動機が働きやすいわけだ。

 

mumutt.jpg保険会社としては治療費が安くなるに越したことはないですもんね。

 

 

01dog.jpg健保診療とすることに同意すれば,「見返り」というわけではないが保険会社がその他の面で被害者の要求に応じやすくなる傾向もある。最終的に保険会社が提示してくる賠償金額にも全く影響しないとは言えない。

 

aryarya.jpg今更な疑問ですが,そもそも交通事故で健康保険が使えるのですか?自由診療でないとダメと聞いたことがあるのですが。

 

 

03dog.jpgそれは昔からある誤解だ。交通事故では健康保険は使えないと虚偽の説明をするごく一部の病院が未だにあるが(自由診療のほうが儲かるため),ちゃんと健康保険を使用できるので安心して欲しい。稀に健保診療だと自賠責用の診断書は書けないと言って自由診療を押し付けようとする病院や接骨院があるが,そんな変な病院や接骨院からは転院したほうがいいだろう。健保診療では「第三者の行為による傷病届」などの書類を健康保険に提出しなければならないが,この手続は難しいものではない。なお,通勤中や業務中の事故で労災保険の適用がある場合は,健保ではなく労災を使うことになる。

 

hanya.jpg結局,自由診療を選択するメリットは何もなく,逆に健保診療を選択するデメリットも何もないと考えていいのですか?

 

 

02dog.jpgそう言っても過言ではない。交通事故に関しては,基本的に自由診療と健保診療で治療内容は変わらないので,治療費の総額を抑えるために健保診療にすることは加害者側だけでなく被害者にとっても有益だと考えて欲しい。「腹いせ」で保険会社に多額の治療費を払わせてやろうとか,自分の健康保険を使うのは気分が悪いといった理由で自由診療にしたところで,結局何一つ被害者の利益になることがなく,逆に大幅に不利益になる可能性があるのだから。

 

mutt.jpg分かりました。健保診療にすることにします。

 

 

01dog.jpgもし自由診療で始めていても,途中から健保診療に切り替えることはできるので,早めに病院や保険会社に申し出るといいね。

弁護士に依頼せず裁判基準で賠償を受けられるか?

mutt.jpg任意保険の賠償提示は保険会社の内部基準による低い金額であり,より適正な裁判基準(弁護士基準)による賠償金の算定があると聞きました。


01dog.jpgいわゆる任意基準裁判基準(「赤い本」や「青い本」による基準)とでは賠償金額に大きな差が出るので,多くの事案では弁護士に依頼することでより高額の賠償金を獲得できる。


hanya.jpg弁護士に依頼せず自分で保険会社と交渉する場合,裁判基準にはしてもらえないのですか?

 


02dog.jpg被害者本人が裁判基準での算定を求めた場合,任意基準から裁判基準寄りに多少は譲歩してくれることもあるが,完全な裁判基準どおりの算定を求めれば,「では弁護士に相談して下さい」と言われて終わることがほとんどだろう。


punpun.jpg弁護士に依頼しなければ裁判基準を適用してもらえないなんておかしいと思います。保険会社は最初から適正な裁判基準で賠償提示すべきではないですか?


03dog.jpgその不満は理解できる。しかし,そもそも賠償金の算定に絶対的・普遍的な基準はない。形式的な数値の当てはめで算定された任意基準による賠償額よりも,個別具体的な全事情を考慮して決定された裁判基準による賠償額のほうが低額になる例外的事案も一定数ある。そのような例外的事案では「適正」な裁判基準のほうが被害者に不利になる。


mutt.jpgでも圧倒的に多くの場合は任意基準より裁判基準のほうが高額の賠償金になるんですよね。

 


01dog.jpgだからこそ,被害者が弁護士委任していない事案に対して保険会社は裁判基準での賠償を原則認めない。インターネット等を通して賠償金算定の情報が得られやすくなり弁護士も探しやすくなったが,全ての被害者が裁判基準での算定を求めたり弁護士委任するわけではないからだ。よって「弁護士委任されたときだけ,裁判を起こされたときだけ,裁判基準で支払う」のが保険会社にとって合理的な選択(支払額が少なくて済む)となる。


aryarya.jpg何だか腑に落ちません・・・。

 


02dog.jpgもっとも,弁護士が受任しても,示談交渉だけでは保険会社は裁判基準に達するまでの増額に応じないこともある。結局,被害者が高額の賠償金を求め裁判基準を主張するのであれば,弁護士に依頼し,最終手段としては裁判で決着を付ける,という手順を取るべきなのは仕方がない。弁護士に依頼せず裁判もせず,つまり時間と費用をかけず,裁判で逆に減額になるかもしれないリスクも取らず,増額のメリットだけを享受しようと裁判基準での算定を求めるのは,酷な言い方だが虫が良すぎるということになるだろう。

リサーチ会社その1

hanya.jpg保険会社からリサーチ会社を入れると言われました。被害者にも話を聞きに来るそうです。これって何なんですか?


01dog.jpg事故態様や過失割合に争いがある事案では,警察など捜査機関による実況見分や事情聴取とは別に,任意保険会社が独自にリサーチ会社事故現場の調査や当事者への聞き取りを依頼する場合がある。事故態様だけでなく休業損害等に関する調査を依頼する場合も少なくない。


aryarya.jpg依頼した保険会社にとって都合の良い結論が出されるのでは?

 


02dog.jpg確かにそういう側面は否定できない。しかし,リサーチ会社からの聞き取りに応じなかった場合,調査報告書には相手方の言い分のみが記載され,それを前提に事故態様や過失割合を判断されかねない。むやみに拒否するより自分の言い分をしっかり話してそれを記載してもらうほうが得策だ。


hanya.jpgリサーチ会社調査報告書には何が記載されるのですか?

 


03dog.jpg大別すると,事故現場の図面や写真・当事者の供述など事故態様に関する「事実」の調査結果についての記載と,それに基づきリサーチ会社が判断した過失割合などの「評価」の記載がある。

リサーチ会社その2

hanya.jpgリサーチ会社作成の調査報告書に記載された「事実」や「評価」の内容により,結論が左右されるものですか?


01dog.jpg事実」のうち,事故現場の測定値など客観的なものは比較的信用できることが多い(いい加減なものもある)。一方,「評価」については,そもそも過失割合等は弁護士や裁判所による判断に馴染む「法的評価」なので,リサーチ会社の一調査員の見解には何の信用性もない。


hanya.jpgでは,「評価」の記載はあまり意味がないのですか?

 


02dog.jpg過失割合についてリサーチ会社ができるのは表面的・形式的な分析のみだ。争いの少ない事案ではそれでも結論に大差は出ない。しかし,リサーチ会社が利用されるような争いの多い事案では,過失割合の判断の枠組となる基本的過失割合や修正要素の適用の是非等に関して,それらの意義を踏まえた深い洞察と分析ができなければ正しい評価は導かれない。実際,過失割合等に関する「評価」の記載は参考程度にもならないお粗末なものが多く,なるほどと思える分析がされた調査報告書を私は一度も見たことがない。


aryarya.jpg結構いい加減なのですね。

 


03dog.jpgそれでも,被害者本人に対しては保険会社は調査報告書を根拠に過失割合を主張してくることが多い。もっとも,交通事故に詳しい弁護士が入れば容易に反論できるものは少なくないし,まして訴訟となれば,少なくとも「評価」の部分についてはリサーチ会社調査報告書に何が書いてあろうと何の参考にもされないから,リサーチ会社の介入を恐れる必要は全くない。

後遺障害等級の認定 〜誰が認定するのか?〜

hanya.jpg交通事故で後遺症が残った場合,後遺障害認定を受けて等級が決まると聞きました。どんな流れになるのですか?


01dog.jpg治療が一段落して症状固定と判断されたとき,医師に「後遺障害診断書」を書いてもらうことになる。後遺障害の種類によって他の診断書等も必要となる場合もある。例えば,高次脳機能障害であれば「神経系統の障害に関する医学的意見」や「頭部外傷後の意識障害についての所見」を医師に書いてもらう必要があるし,被害者の家族が書く「日常生活状況報告」という書類も必要だ。


mutt.jpg自分の主治医が後遺障害等級を認定するのですか?

 


02dog.jpgそれは違う。自分がかかっている医師には後遺障害診断書等に医学的な所見や検査結果等を記載してもらうだけで,その医師が等級の判断をするわけではない。後遺障害診断書などの必要書類を自賠責保険に提出し,自賠責保険から調査を依頼された損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所後遺障害等級認定を行なう,という流れだ。提出された資料だけではなく,調査事務所が独自に医療機関等に照会を行うなどして補充資料を収集する場合もある。


aryarya.jpg主治医でない第三者が認定するのは変な気がします・・・。

 


03dog.jpgもちろん主治医の診断は最も重要な根拠だ。しかし,その診断の客観性を担保する必要があるし,被害者の後遺障害が具体的にどの等級に該当するかは自賠法上の規定に基づく判断なので,自賠責保険における後遺障害等級認定の仕組の中で診断書や各種検査所見等を踏まえた客観的な判断が下されることになる。なお,自賠責保険の後遺障害等級認定は,原則として労災保険の障害等級認定基準に準じて行われている。

後遺障害等級の認定 〜事前認定〜

hanya.jpg後遺障害等級認定には,事前認定被害者請求という2種類の方法があると聞きました。それぞれどんな方法でどんな違いがあるのですか?


01dog.jpg事前認定は,任意保険が自賠責保険の負担部分も含めて被害者に支払う「一括対応」を行なっているときに,任意保険が自賠責保険に対して後遺障害等級認定の手続を行なう方法だ。


mutt.jpgもう少し詳しく説明して下さい。

 


02dog.jpg一括対応中の任意保険は,被害者に賠償金を支払った上で後から自賠責保険にその負担分を請求するが,後遺障害等級に対応して自賠責保険が負担する後遺障害保険金の額が決まるので,任意保険としては後で自賠責保険が支払ってくれる金額を「事前に」知っておく必要がある。そのために行なう後遺障害等級認定手続だから「事前認定」と呼ばれる。


mutt.jpgなるほど。

 


03dog.jpg事前認定は有無責・重過失減額・共同不法行為等についても行われるが,後遺障害等級認定の文脈では「任意保険を通じて自賠責保険の後遺障害等級認定手続を行なう方法」と考えておけば概ね間違いない。


aryarya.jpg事前認定による後遺障害等級認定は,被害者関係なく任意保険が勝手にやってしまうのですか?

 


01dog.jpg必ずしもそうではない。任意保険が「症状固定して後遺障害等級認定を行なう時期になったので後遺障害診断書を医師に作成してもらって下さい」などと被害者に伝え,被害者が医師に後遺障害診断書の作成を依頼する。その後,交付された後遺障害診断書を被害者が任意保険に送付し,任意保険が自賠責保険に対して事前認定手続を開始する,という流れが一般的だ。任意保険が医療機関に後遺障害診断書の作成を直接依頼し,医療機関が任意保険に直接送付する,という場合もあるが,基本的には任意保険は被害者にも症状固定して後遺障害等級認定手続を行なうことを伝えて手続を進めていく。

後遺障害等級の認定 〜被害者請求〜

hanya.jpg被害者請求とはどんなものですか?

 


01dog.jpg被害者請求は,被害者が任意保険を通さず自賠責保険へ直接請求する(自賠法第16条1項に基づく請求)手続一般のことだ。後遺障害等級認定手続の文脈では,被害者が自賠責保険に対して後遺障害保険金の請求を行うことにより,その前提として後遺障害等級認定が行われると理解すれば良い。


hanya.jpg具体的にはどんな流れになりますか?

 


02dog.jpg被害者が直接医師に後遺障害診断書等の作成を依頼する。また,任意保険が治療費を支払っている場合は,任意保険は事故後の経過の診断書診療報酬明細書を医療機関から取り付けて保管しているので,その原本又は写しを任意保険から送ってもらう。その他必要書類一式が揃ったら,交通事故証明書に記載の加害者側の自賠責保険会社に書類を提出し,認定手続が開始される。


mutt.jpgそれで被害者のやることは終わりですか?

 


03dog.jpgまだある。通常,自賠責保険会社から調査事務所に書類が送られ,調査事務所が必要となる画像(レントゲン・CT・MRI等)の提出を被害者に指示してくる。その指示を受けて,被害者が医療機関から画像を取り付けて調査事務所に送付する。また,外貌醜状など調査事務所に面接調査に行かなければならない場合もある。

後遺障害等級の認定 〜事前認定と被害者請求の違いその1〜

hanya.jpg事前認定被害者請求では結果が変わるのですか?違いが詳しく知りたいです。

 


01dog.jpgまず,等級認定結果が出た時点で後遺障害保険金が支払われるか否かという違いがある。被害者請求の場合,認定結果の通知から数日程度の後,指定した銀行口座へ認定等級に対応した後遺障害保険金自賠責保険より振り込まれる。


mutt.jpg事前認定ではその支払がないのですか?

 


02dog.jpg事前認定はあくまで一括対応中の任意保険が「事前に」行なうものなので,認定結果が出ればそれを踏まえて任意保険は被害者に賠償金の提示をする。その賠償金には自賠責保険から支払われる後遺障害保険金分も含まれているが,被害者がその提示を受け入れて示談しない限り,自賠責保険後遺障害保険金分についても任意保険からは支払われないし,自賠責保険からも支払われない。


aryarya.jpgそれは困りますね。とりあえず後遺障害等級が決まったなら幾らかでもお金が入るほうが助かります。示談して全面解決に応じなければ自賠責保険後遺障害保険金分ももらえないというのでは,無理に示談を急ぐことになってしまいます。


03dog.jpgただし,事前認定結果が出た後,改めて被害者が自賠責保険に直接請求して支払を受けることは可能だ。結局は被害者請求をする形式になるが事前認定の結果がそのまま流用されるのが通常なので,最初から被害者請求をした場合より後遺障害保険金の支払いまでの期間は短い場合が多い。

後遺障害等級の認定 〜事前認定と被害者請求の違いその2〜

hanya.jpg事前認定被害者請求とで他にどんな違いがありますか?

 


01dog.jpgどちらの手続でも,診断書等の必要書類と共に自賠責保険へ「意見書」を添付する場合がある。その意見書は事前認定では任意保険が,被害者請求では弁護士委任した場合は弁護士が作成して添付する。


hanya.jpg意見書ってどんなものですか?

 


02dog.jpg簡単に言えば,認定されるべき後遺障害等級が何級かについて根拠や意見を記載したものだ。

 


mutt.jpg意見書は常に添付されるのですか?

 


03dog.jpg常にというわけではなく事案による。高次脳機能障害など重度・複雑な後遺障害の場合が比較的多いが,ムチ打ちなど軽度の後遺障害でも添付する場合がある。


aryarya.jpg意見書の有無や内容で自賠責保険の等級認定結果に影響が出るのですか?

 


01dog.jpg意見書の有無や内容のみで結果が大きく左右されはしない。自賠責保険では基本的に診断書・診療報酬明細書・画像・各種検査結果・治療経過などを基に認定を行なうので,任意保険や被害者がそれらの資料と整合しない独自見解を記載した意見書を提出しても何の参考ともされない。


hanya.jpgでは,意見書は意味がないのですか?

 


02dog.jpg認定されるべき後遺障害等級に争いが生じ得る事案で,診断書その他の資料とも整合する理にかなった意見書を提出する場合には,十分に意味があると言える。もちろん,その場合も最重要なのは意見書の有無や内容ではなく診断書等の客観的資料であることに変わりはない。

後遺障害等級の認定 〜事前認定と被害者請求の違いその3〜

hanya.jpg結局,後遺障害等級認定事前認定被害者請求のどちらでやるべきなのですか?

 


01dog.jpg「後遺障害認定前から弁護士に依頼し被害者請求で後遺障害認定を獲得する」のがベストな方法だろう。被害者請求ならまず自賠責保険金が獲得できるという最大のメリットがある。また,被害者請求なら必然的に後遺障害診断書その他の資料の作成・収集も任意保険ではなく被害者主導となるので,万全を尽くして認定資料を揃えられるという効果もある。


hanyaa.jpg任意保険が主導する事前認定では,少なくとも後遺障害等級が重くなる(賠償金が高くなる)方向性で任意保険が尽力することはなさそうに思えます。


02dog.jpgもちろん任意保険のほとんどの担当者は適正に認定資料を収集するが,「方向性」の問題としては支払う側の任意保険が根本的にそのような姿勢になるのは仕方がない。


mutt.jpg確かにそうですね。

 


03dog.jpg実際に事前認定被害者請求とで認定結果に差が出るか否かの問題より,任意保険主導の事前認定を行って満足しない結果が出た場合に「被害者請求で行っていれば」と後悔が残ることのほうが良くない。それなら最初から任意保険に任せた事前認定ではなく自ら万全を尽くして被害者請求を行い疑義のない結果を得られる方向性を選ぶべきだ。

 

mutt.jpgなるほど。

 

 

01dog.jpgまた,任意保険の担当者の怠慢や業務多忙等の事情で準備が進まず事前認定手続が中々開始されないこともよくあるので,そうした事態の回避のためにも被害者請求は有用だ。

後遺障害等級の認定 〜事前認定と被害者請求の違いその4〜

hanya.jpg事前認定被害者請求とで認定結果に差が出にくい後遺障害はありますか?

 


01dog.jpg後遺障害の性質による。例えば,「1下肢をひざ関節以上で失った場合」は第4級5号が認定されるが,このような障害は診断書や画像等により認定基準に該当するか否かが一見して明らかだ。事前認定だろうが被害者請求だろうが,意見書を添付しようがしまいがその内容がどうであろうが,結局認定されるのは第4級5号なのはほぼ確実と言える。


mumutt.jpg一見して明らかな後遺障害であればそうなるのは当然ですね。逆に,事前認定被害者請求とで認定結果に差が出やすい後遺障害はどんなものですか?


02dog.jpg例えば,中程度〜軽度の高次脳機能障害の場合,認定可能性が高いのは第5級2号か第7級4号か第9級10号だが,これらに明確な境界線があるわけではないので,診断書や検査結果等を踏まえた総合的な判断により等級が決定される。このような後遺障害では,実態が正しく判定されるよう適切な認定資料の作成と収集を行い,それをを踏まえた説得力ある意見書を添付することで,より適正な認定を得られやすくなる。


mutt.jpgなるほど。結局,後遺障害によっては事前認定でも問題ない性質のものはあるものの,万全を尽くすという意味ではどんな後遺障害でもまずは被害者請求を基本に考えるということで良さそうですね。

損害額の算定基準その1 〜自賠責基準〜

mutt.jpg損害額の算定基準が色々あると聞いたのですが・・・。

 


01dog.jpg一般的によく聞くのは自賠責基準・任意基準・弁護士基準・裁判基準・人傷基準だな。

 


mutt.jpg一つ一つ説明して下さい。

 


02dog.jpgまず,自賠責基準は,正確には自賠法第16条の3第1項により根拠付けられた「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)を指す。


shikushiku.jpgいきなり難しそうです。

 


03dog.jpg要するに自賠責保険金の支払で用いられる基準と考えればよい。自賠責保険は被害者に対する基本補償となるものなので,迅速かつ公平な保険金支払のため,損害額の算定基準が定められているということだ。


hanya.jpg自賠責以外では用いられない基準なのですか?

 


01dog.jpg法定された基準なので,純粋な自賠責保険の支払の場面以外でも目にすることが多い。後で説明する任意基準人傷基準でも自賠責基準と同じ算定をする損害費目があるなど,公的・客観的な基準として使われている。


aryarya.jpg自賠責基準が一番安いと聞いたことがあります。

 


02dog.jpg確かに,例えば入院雑費の日額は自賠責基準では1100円,裁判基準では1500円といった数字だけ見れば自賠責基準が一番安いという印象を持つだろう。だが,自賠責基準はその性質上,定型的・形式的に基準に当てはめて損害額を算定するので,事案によっては個別具体的な事情を前提に算定する裁判基準を用いると逆に安くなってしまう損害もある。「基準」としては自賠責が一番安いというのは間違いではないが,それを適用した結果が自賠責基準の場合に常に最も被害者側に不利というわけではないということだ。

損害額の算定基準その2 〜任意基準〜

hanya.jpg任意基準とはどんなものですか?

 


01dog.jpg任意保険会社が被害者に損害賠償提示を行うときに用いる基準だ。任意基準という統一的なものがあるわけではなく,各保険会社が独自に定めた内部基準に過ぎないので(ただし保険会社によって大きな差はない),拘束力もない。


mutt.jpgでも任意保険はその内部基準で算定した損害賠償提示をするんですよね?

 


02dog.jpgそうとは限らない。最初は自賠責基準で提示し,被害者が受け入れなければ任意基準と称して少し高い金額を提示するとか,そこから更に被害者や弁護士が交渉することで大幅な増額を認めることがあったりとか,結局は任意保険の裁量次第だ。


mumutt.jpgそうすると,任意基準というのはあまり気にする必要はないんですね。

 


03dog.jpg特に被害者側の弁護士は任意基準なるものを意識して交渉することはほとんどない。

損害額の算定基準その3 〜弁護士基準・裁判基準・赤い本・青い本その1〜

hanya.jpg弁護士基準裁判基準とはどんなものですか?

 


01dog.jpg弁護士基準とは弁護士が損害算定に用いる基準であり,裁判基準とは訴訟で裁判所が損害算定に用いる基準のことだ。両者で若干ニュアンスが異なるが,弁護士基準裁判基準は基本的に同じものを指す。


hanya.jpgその基準は自賠責基準のように何かに規定されているのですか?

 


02dog.jpg自賠責基準のような法的な規定ではないが,「赤い本」と「青い本」に書かれている基準のことを弁護士基準裁判基準と呼ぶことが多い。正式には,「赤い本」は『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』,「青い本」は『交通事故損害額算定基準』という書籍で,前者は日弁連交通事故相談センター東京支部が毎年,後者は同センターが隔年で,それぞれ編集・発行している。


aryarya.jpg赤い本」と「青い本」はどう違うのですか?

 


03dog.jpg慰謝料等の基準額に若干の差があるほか,編集・発行元の関係で「赤い本」は東京基準,「青い本」は全国基準と言われることがある。また,「青い本」のほうがやや被害者寄りの裁判例を載せているとか,損害算定の趣旨を詳しめに記載しているなどの特徴がある。

損害額の算定基準その4 〜弁護士基準・裁判基準・赤い本・青い本その2〜

hanya.jpg東京の裁判所では「赤い本」を,それ以外の全国の裁判所では「青い本」を使うのですか?

 


01dog.jpg東京周辺ではほぼ「赤い本」を使うが,それ以外の全国の裁判所でも「赤い本」を使うことが珍しくない。もっとも,元々どちらも裁判所を拘束する基準ではなく,あくまで裁判所が損害算定で参考にするという位置付けに過ぎない。


mumutt.jpg赤い本青い本って本の表紙の色から付いた通称なんですよね。

 


02dog.jpgそうだ。その他に日弁連交通事故相談センターの愛知県支部が「黄色い本」と呼ばれる『交通事故損害賠償額算定基準』を出していて,名古屋地裁ではこれを参考にする場合がある。また,大阪地裁民事交通訴訟研究会が『大阪地裁における交通損害賠償の算定基準』を出していて,大阪地裁ではこれが使われる。特に色による通称はなく「大阪基準」などと呼ばれるようだ。


mutt.jpg色々あるんですね。

 


03dog.jpg他にも,物損についてオートガイド社発行の「レッドブック」と呼ばれる中古車価格月報誌がよく使われる。これを「赤本」と通称する場合があって「赤い本」と少し紛らわしいが,レッドブックのほうは事故車両の全損時価額等の算定場面でのみ用いられるものだ。


hanya.jpg交通事故紛争処理センターでも「赤い本」や「青い本」を使うのですか?

 


01dog.jpg交通事故紛争処理センターの場合,関東の本部・支部では「赤い本」を,その他の地域の支部では「青い本」を用いることが多い。

損害額の算定基準その5 〜人傷基準その1〜

hanya.jpg人傷基準とは何ですか?

 


01dog.jpg人身傷害保険の算定で用いられる基準だ。各保険会社の約款に損害算定基準が明記されており,人傷基準損害額などと呼ばれている。


hanya.jpg人身傷害保険金を請求した場合,損害算定はその基準に従ってなされるのですか?


02dog.jpgもちろんだ。ただし,加害者に対する損害賠償請求訴訟を経たときはその訴訟の判決や裁判上の和解における損害算定額をもって人傷基準損害額とみなすといった例外を規定する保険会社も多い。


aryarya.jpg被害者が加害者側の任意保険に損害賠償請求するときは任意基準の損害額に拘束されないのに,被害者が自分側の任意保険に人傷保険請求をするときは人傷基準の損害額に拘束されるという違いはどこから来るのですか?


03dog.jpg簡単に言えば,当該保険の被保険者であるか否かの違いだ。加害者側の任意保険にとっての被保険者や契約者はその加害者側であって被害者ではないから,被害者は元々何らの保険関係もなかった加害者側の任意保険の「任意基準」とやらに拘束される謂れはない。一方,人身傷害保険は被害者が自分又は家族等が契約し被害者自身が被保険者となっている任意保険に請求するものなので,その任意保険の約款に明記された「人傷基準」に拘束されるのは当然である,という説明ができる。

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