休業損害 〜給与所得者その1〜

hanya.jpg給与所得者休業損害はどのように算定されますか?

 

 

02dog.jpg事故の受傷を原因として休業した場合に,その休業によって現実に生じた減収額が損害として認められるのが原則だ。実務上は「基礎収入×休業期間」と算定することが多い。

 

hanya.jpg基礎収入というのは何ですか?

 

 

01dog.jpg事故前の収入のことだ。事故前3か月の給与を基礎収入とするのが通常だが,変動が大きい職種では前年同期の収入やより長い期間の収入を基礎とする場合もある。保険実務上は事故前3か月分の給与支払額が記載された「休業損害証明書」を勤務先に作成させ,これを基礎収入の根拠とすることが多いので,もし事故前3か月の収入が基礎収入として不適当な事情があるならば,被害者側において別途の基礎収入を用いるべき合理性を主張・立証すべきことになる。

 

hanya.jpg休業期間は最大でいつまで認められるのですか?

 

 

03dog.jpg傷害が完治するか症状固定日までだ。症状固定日後も休業している場合は「後遺障害逸失利益」の問題となるので,休業損害とは別の費目で評価される。

 

mutt.jpg怪我をしたからといって簡単には休めず頑張って勤務を続けたという場合,仮に休んでいたら発生したであろう休業損害を認めてもらうことはできないのですか?

 

02dog.jpg休業損害は原則として実損害なので,特に給与所得者の場合は現実の収入減が発生しない限り「仮定的な休業損害」は認められない。休業はせずとも事故前より残業を減らさざるを得なくなり収入が減ったというような場合は,現実の収入減が発生しているので,休業損害として認められ得る。

 

aryarya.jpgでは,頑張って休業せず仕事を続けるだけ損ですね。症状固定日まではなるべく長く休業したほうが得ということですか?

 

 

01dog.jpg受傷・症状の内容・程度,治療経過等から就労可能であったと認定された場合,現実に休業して収入減が発生していても休業損害として賠償の対象とならないことがあるので,そういう小細工はやめたほうがよい。なお,「本来は休業すべき程度の症状だった」ことが立証できれば,傷害慰謝料(入通院慰謝料)の増額事由となる場合もあるよ。 

休業損害 〜給与所得者その2〜

hanya.jpg休業したために賞与が減った場合も賠償の対象となりますか?

 

 

01dog.jpgもちろんだ。「賞与減額証明書」を勤務先に作成してもらうなどして立証する。そのほか,昇給・昇格遅延による損害も休業損害と認められ得る。

 

aryarya.jpg有給休暇を使用して休業した場合,現実の収入減が発生しないから休業損害は認められないことになるのですか?

 

 02dog.jpg本来他に利用できた有給休暇を事故のために使用しなければならなかったのであり,失った余暇等の為の時間は財産的価値を有すると評価できるため,有給休暇の費消も休業損害として認められる。ただし,一度復帰した後の有給休暇の取得を休業損害として認めさせるには,通院日と一致するなど事故と因果関係のあることを立証する必要があるだろう。

 

punpun.jpg症状固定日までずっと休業していたのに,損保からは通院日だけを休業日として算定した休業損害額が提示されました。これって妥当なのですか?

 

03dog.jpg給与所得者に限らず,傷害が軽微な事案でそのような算定が妥当な場合もあるが,損保は明らかに重篤な事案を除いて杓子定規に入通院日のみを休業日として算定することが往々にしてあるので,入通院日以外も労働に支障があったことを主張する必要がある。これに関連して,実際の休業状況や減収の程度とは別に,受傷・症状の内容・程度,治療経過等から「休業期間中の労働能力制限割合」を段階的に評価して休業損害額を算定する場合もある。

 

hanya.jpgそれは具体的にどんな算定方式ですか?

 

 

01dog.jpg例えば,症状固定日まで完全休業して後遺障害等級14級が認定された場合において,14級の労働能力喪失率は通常5%だが,「症状固定日までは100%働けず,症状固定日からは5%だけ働けない」と評価するのはバランスが悪い。このような場合,入院中と退院後の数か月は100%,その後の数か月は50%,その後症状固定日までは20%,といったように段階的に「労働能力制限割合」を評価して算定することがある。最初は100%で最後は5%になったのだから平均して全期間52.5%の労働能力制限割合とする,といった算定もあり得るよ。

休業損害 〜事業所得者〜

hanya.jpg事業所得者(個人事業主)休業損害はどのように算定されますか?

 

 

01dog.jpg基本的には給与所得者と同じで,事故の受傷を原因とする休業によって現実に生じた減収額が損害として認められる。ただし,給与所得者のような「休業損害証明書」は作成せず,事故前と事故後確定申告書の控え帳簿などから基礎収入や減収額を認定する。なお,家族等が事業を手伝っている場合には,被害者の寄与分のみが基礎収入となる。

 

hanya.jpg事故前年の確定申告書記載の所得額が基礎収入とされるのですか?

 

 

02dog.jpg年毎の所得変動が大きい職種もあるので,事故前3年分程度の確定申告書から平均的な所得を割り出して基礎収入とする場合もあるよ。

 

aryarya.jpg確定申告書上は,税金対策でかなり申告所得額が低くなっているのですが,これが基礎収入とされてしまうのでしょうか?

 

 

03dog.jpg申告所得額を基礎として算定するのが原則だ。申告所得額を上回る実収入額を立証できればそれが基礎収入と認定される余地はあるし,賃金センサスの平均賃金を参考に基礎収入を認定する場合もあるが,かなり厳しいと言って良い。なぜなら,「税金を支払う場面では過少申告して納税義務の全部又は一部を免れておきながら,損害賠償を受ける場面では実はもっと所得は多かったと権利主張する態度」が自己矛盾しているからだ。このような都合の良い態度を裁判官は非常に問題視する。税務署も裁判所も同じ国の機関だからね。

 

hanyaa.jpg休業していても事務所の家賃などは払い続けなければなりません。これは損害として認められるのですか?

 

 

01dog.jpg家賃・従業員給与・損害保険料その他の固定経費の支出は,事業の維持・存続のために必要やむを得ないものは損害として認められる。

 

mutt.jpg被害者が休業した代わりに雇った従業員の給与外注費などはどうなりますか?

 

 

02dog.jpgそれにより収入を維持した場合,減収と引き換えに代替労働力のための費用が発生したという関係にあるから,当該費用が損害として認められる。その他,休業のため廃棄した食材費とか,事情の再開時に必要となった広告宣伝費といったものも,相当因果関係ある範囲内で賠償の対象となる。

休業損害 〜会社役員〜

mutt.jpg取締役など会社役員が休業した場合の問題点を教えて下さい。

 

 

01dog.jpg会社役員の報酬には,利益配当部分(純粋な役員報酬)労務対価部分(従業員としての就労の対価に対する給与)の2つが含まれていると考えられるが,基礎収入となるのは労務対価部分のみだ。休業中にも得られた利益配当部分があれば,それは休業損害の対象外となる。休業損害だけでなく逸失利益の基礎収入としても利益配当部分は除外される。

 

hanya.jpg報酬は利益配当部分労務対価部分にきっちり分かれているわけではありませんが,どうやって内訳を算定するのですか?

 

02dog.jpg会社の規模・営業状態,当該役員の職務内容・報酬額,他の役員や従業員の職務内容・給与額等を勘案して判断される。そのため,会社役員の休業損害や逸失利益の基礎収入を認定するには,当該会社の決算資料などが必要になってくることが多い。

 

aryarya.jpg休業期間中も,会社が役員である被害者に対して生活費支援などを理由に事故前と変わらない報酬を支払っていた場合,全額が利益配当部分と判断されて何らの休業損害も発生していないことになってしまうのですか?

 

03dog.jpgその場合,被害者には現実の収入減が発生しなかったわけだから,被害者本人は休業損害を請求できない。しかし,事故前も就労がなかった名目だけの役員ではなく,実際に就労もしていた役員の場合,休業して労務対価を提供されなかったのに会社が被害者に報酬を払ったということは,本来加害者側が被害者に支払うべき休業損害を会社が立て替えて被害者に支払ったのと同然だ。こうした場合,当該会社が請求権者となり,支払った報酬のうちの労務対価部分を間接損害として加害者に請求する余地が生まれるよ。

休業損害 〜家事従事者その1〜

hanya.jpg家事従事者(主婦)休業損害はどのように算定されますか?

 

 

01dog.jpg原則として,賃金センサス女子学歴計全年齢平均賃金(平成22年は345万9400円)を基礎収入,受傷のため家事労働に従事できなかった期間を休業期間として,「基礎収入×休業期間」として算定される。

 

hanya.jpg常に女子学歴計全年齢平均賃金が用いられるのですか?

 

 

02dog.jpg年齢,家族構成,身体状況,家事労働の内容等から全年齢平均賃金基礎収入とすることが相当でない場合には,全年齢ではなく被害者の年齢に対応した年齢別平均賃金が用いられる場合もある。特に被害者が高齢者の場合には,年齢別平均賃金や,年齢別をさらに一定割合に減額した金額が用いられることが多い。

 

aryarya.jpg普通は家事労働していても,例えば夫からその金銭対価を受け取るわけではありませんが,それでも休業損害として認められるのですか?

 

03dog.jpg家事従事者が家事を行えなくなった場合に,代わりに他の誰かが家事を行わなければならない関係があれば,それは他人のための労働であり金銭的価値があると評価されているんだ。究極的には家政婦を雇えばお金がかかると考えればいい。

 

mumutt.jpgそうすると,一人暮らしの被害者の場合には,家事を行えなくなっても休業損害は認められないということですか?

 

 

01dog.jpgそのとおり。一人暮らしの家事は他人のための労働ではなく自分が生活するためにしているだけのことだから,金銭的価値を有する労働とは言えず,原則として家事労働に関しての休業損害は認められない。

休業損害 〜家事従事者その2〜

hanya.jpg女性の専業主婦ではなく,男性の「主夫」でも女性と同様に休業損害が認められるのですか?

 

 

02dog.jpg他人のための家事従事者でさえあれば男女を問わない。ただし,男性の場合でも女性の平均賃金を用いる。同じ家事労働なのに男女で対価とすべき金額が変わるのは不合理だからだ。

 

hanya.jpg主婦業の他にパート労働などをしている兼業主婦の場合,家事労働の休業損害と外の仕事の休業損害の両方が認められるのですか?

 

 

01dog.jpg兼業主婦の場合は,外の仕事での現実の収入額と,家事労働の評価額である平均賃金のいずれか高い方が基礎収入として採用される。実収入を平均賃金に加算しないのは,それをすると基礎収入が不相当に高くなりすぎるからだろう。

 

mutt.jpgその他に家事従事者休業損害で問題となることはありますか?

 

 

03dog.jpg家事労働休業損害の対象になるとは言っても,通常の労働に比べればその負担は少ない。したがって,「通常の労働に復帰するのはまだ困難だが,家事労働を行うことができる程度には回復した状態」が観念できるので,通常の労働よりも休業期間は制限されやすくなる。

 

mumutt.jpg確かに,家事は家事で大変ですが,家電の発達した現在では外での就労よりは負担は少ないですね。

 

 

02dog.jpgまた,休業期間自体は事故日から症状固定日まで全期間を認められた場合でも,前に説明した「労働能力制限割合」(→休業損害 〜給与所得者その2〜)の考え方で休業損害が算定されることもある。特に,ムチ打ち損傷事案などでは,症状固定日まで家事すら一切できない状態が一貫していたというのは考えにくいので,「どの程度家事労働が制限される状態だったか」を評価して算定することが妥当な場合がある。

休業損害 〜失業者〜

mutt.jpg失業者休業損害は一切認められないのですか?

 

 

01dog.jpg休業損害現実の収入減を前提とするので,事故前も事故後も収入がない状態で変化のない失業者には原則として休業損害は認められない。

 

hanya.jpg例外的に認められる場合もあるのですか?

 

 

02dog.jpgすでに就職が内定している場合には,就業開始予定日からの休業損害が認められ得る。また,失業期間が短期でその前は就労を継続しており,失業中も就職活動を行なっていた場合であれば,「たまたま事故時は失業していたが労働意欲は旺盛である」として,いずれは就労を開始した蓋然性が高いと評価されるので,休業損害が認められやすい。

 

hanya.jpgそのように休業損害が認められる場合,基礎収入は何を基準にするのですか?

 

 

03dog.jpg就職が内定している場合は予定されている給与額で計算するのが合理的だ。一方,内定はないが就労の蓋然性が認められた場合では,就労可能性が高かったといっても具体的にいつから,いくらの金額でという点は確定できないので,事故前に就労していたときの実収入や賃金センサスの平均賃金を一定割合減額した金額を基礎収入として用いることが多い。

 

shikushiku.jpg常に平均賃金くらいは認めて欲しいです。

 

 

01dog.jpgあくまで休業損害は実損害であり,失業者には実損害がないのが原則なのだから,その点はやむを得ない。例えば,何年も無職だった人が,事故時にはすぐに就職する可能性が高い状態になっていたと主張しても説得力がない。また,就労していた時期の実収入が平均賃金の5割程度だった場合に,事故時には平均賃金と同程度(事故前の倍)の収入を得られる職に就く可能性があったと主張したとしてもやはり説得力に欠ける。

 

aryarya.jpgそう言われればそれまでですが・・・。

 

 

02dog.jpg症状固定までの治療期間が長期に及ぶ場合には,その間ずっと無収入であることを前提とするのが酷な場合に,本来は実損害である休業損害に仮定的な評価を持ち込んで認定するのが失業者の休業損害なので,平均賃金をそのまま用いさせるのは難しいと言える。結局は原則と異なる例外事情を立証できるかの問題だ。

休業損害 〜学生・高齢者〜

hanya.jpg学生がアルバイトをしていた場合,その分は休業損害として認められますか?

 

 

01dog.jpg事故の受傷で就労できず現実の収入減が発生したならば,就労できなかった期間について休業損害が認められ得る。

 

 

hanya.jpg症状固定までの期間が卒業後にも及ぶ場合はどうなりますか?

 

 

02dog.jpg例えば大学4年生で事故に遭い,受傷のため卒業後も就労を開始できず,症状固定日も卒業後となった場合には,本来の就労開始予定日からの休業損害が認められ得る。基礎収入としては,学歴別・年齢別の平均賃金を用いることになるだろう。

 

aryarya.jpg無職の高齢者では休業損害は認められないのでしょうか?

 

 

03dog.jpg一概に高齢者と言っても,就労の蓋然性を立証できれば休業損害が認められることに変わりはない。高齢者であればその立証難度が上がるだけだ。ここで言う「就労の蓋然性」とは,「これまでの経験を生かして何か事業を始めようと考えていた」という程度ではダメだぞ。元より仮定的な算定で期間も長期に及ぶ逸失利益に比べ,実損害が原則で期間も短期の休業損害の算定では,就労の蓋然性はより高度なものが求められる。

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