過失割合 〜事故態様の認定〜

hanya.jpg交通事故の過失割合はどのように決めるのですか?

 


01dog.jpg前提となるのは事故態様という「事実」の認定で,その「事実」に基づく「評価」が過失割合という関係にある。よって,まずは事故態様がどのようなものであったかを把握することから始まる。


hanya.jpg事故態様はどのように判断されるのですか?

 


02dog.jpg事故発生からの時系列に沿って考えると,事故直後は当事者双方の言い分くらいしか材料がないことが多いので,相手方の保険会社はまずは相手方運転者の申告を前提に事故態様を把握するのが通常だ。


punpun.jpg保険会社がこちらの言い分も聞かず相手方の言い分のみを前提に話をしてくるのに腹が立ちました。

 


03dog.jpg交渉を代行する保険会社にとっては,自分の契約者側の意向に反する主張をできないのは仕方ない面がある。例えば,信号のある交差点の事故で,お互いが自分が青で相手が赤だったと真っ向から対立する主張をしている事案では,少なくとも事故直後は相手方の保険会社は相手方本人の言い分を前提にするしかない。


mutt.jpg事故から時間が経つとどう変わるのですか?

 


01dog.jpg刑事処分が決まると実況見分調書などの刑事記録が取付可能になるので,これが重要な根拠になる。刑事処分が決まる前でも保険会社がリサーチ会社を入れて独自に事故状況を調査し,その結果を判断の材料にする場合もある。


aryarya.jpgそうした材料が揃ってもなお事故態様について双方の言い分が異なるときは,最終的にどう決着するのですか?

 


02dog.jpg示談交渉で食い違いが解消されないなら,最終的には民事訴訟で裁判所の認定に委ねるしかない。刑事記録,現場写真・映像,当事者の供述,目撃供述,科学的鑑定その他様々な証拠を双方が提出し,説得的な主張を行なうことになる。

過失割合 〜判断の枠組〜

hanya.jpg事故態様という「事実」を認定した後,そこからどのように過失割合を「評価」するのですか?

 


01dog.jpg一般に『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』が参考にされる。この本は判例タイムズの別冊で,平成26年7月に10年ぶりに全訂5版が出版された。交通事故の保険・裁判実務で過失割合の認定基準として用いられる重要な本だ。表紙が緑色なので『緑の本』と呼ばれることもある。


mutt.jpg損害賠償額の算定基準についての『赤い本』にも過失割合の基準が詳しく記載されていますが・・・。

 


02dog.jpg実務上は圧倒的に『緑の本』によることが多い。ただし,ほとんどの事故類型で『緑の本』『赤い本』は同じ評価をしているが,中には『緑の本』にない事故類型が『赤い本』にあるものや,同じ事故類型でも評価が若干異なるものもあるので,そうした場合に参考とすることがある。


hanya.jpgところで,有料で過失割合の分析・報告書作成をしてくれるところをネットで見つけたので依頼しようと思ったのですが,そういうものは参考にされますか?


03dog.jpg何の参考にもされない。行政書士,司法書士,公的機関と誤認させる名称を冠するNPO法人や民間事業者がそのような有料サービスを行なっている例があるが,内容は事実認定や法的評価に精通していない者が『緑の本』などの基準本に形式的・表面的な当てはめをした程度のものに過ぎない。


aryarya.jpg保険会社との交渉や訴訟で証拠提出すれば役に立ちませんか?

 


01dog.jpg証拠としての信用性が認められる性質のものではないので何の役にも立たず,自己満足のための資料にしかならない。過失割合について色んな意見を聞きたければ,法律相談で複数の弁護士に聞くほうが建設的だ。

過失割合 〜基本的過失割合その1〜

hanya.jpg『緑の本』を使ってどのように過失割合を判断するのですか?

 


01dog.jpg当該事故が『緑の本』に分類されたどの事故類型に該当するかを選択するのが第1の作業だ。各事故類型には「基本的過失割合」が定められており,これが出発点となる。



mutt.jpg例えばどんなものですか?

 


02dog.jpg例えば,「信号ある交差点で対向からの直進四輪車・右折四輪車が共に青信号で進入した場合」(いわゆる右直事故)は『緑の本』全訂5版の【107】図にあたり,基本的過失割合は「直進車20:右折車80」とされている。


aryarya.jpg該当する事故類型の掲載がない特殊な事故はどうしますか?

 


03dog.jpg『緑の本』にある類似の類型を参考に基本的過失割合を判断するか,類似の事故態様に対する過失判断がなされた判例を参考にする。どれが類似するか,類似するとしてそれをどう修正して基本的過失割合を決めるかだけで大きな争いになりやすく,弁護士が入らないと妥当な解決が難しい。



hanya.jpg事故類型基本的過失割合はどんな根拠で定められているのですか?

 


01dog.jpg基本的には道路交通法経験則に従った評価になっている。最新の『緑の本』は平成26年7月発行の全訂5版だが,版を重ねるごとに再検討が加えられており,同じ事故類型でも道路交通法の改正や社会情勢などを踏まえ,基本的過失割合修正要素が変更される場合がある。

過失割合 〜基本的過失割合その2〜

mutt.jpg『緑の本』基本的過失割合には納得できないものもあります。例えば,右直事故(【107】図)基本的過失割合は「直進車20:右折車80」ですが,直進車優先は明らかなのに直進車が20%も過失を取られるのは納得できません。直進車の通過待ちをせず強引に右折してきた右折車の100%過失ではないのですか?


01dog.jpg一般の方はそのように「オール・オア・ナッシング」で100か0かで考える人が多いね。気持ちとしては理解できなくはないが,基本的過失割合に限った法的評価としては妥当でない。


hanya.jpgなぜですか?

 


02dog.jpgその事例でも直進車優先だからといって直進車の注意義務が消滅するわけではないし,極論すれば,直進車が右折車を認知後に敢えてその通過を待ってあげた場合にはその右折車とは衝突してないはずだからだ。よって,直進車が万全の注意を払ったなら事故を回避できた可能性があり,それが直進車にも一定の過失を認めるべきという評価に繋がる。


hanyaa.jpgなんだか納得できません・・・。優先する側に無理を強いているような気がします。

 


03dog.jpgもちろん,完全に回避可能性がない事例や,後で説明する「修正要素」適用後の最終的な過失割合が直進車0%になる場合はある。しかし,過失評価の出発点となる「基本的過失割合」としては「直進車20:右折車80」がバランスの取れた評価ということになる。他の事故類型の基本的過失割合でも同様のことが言える。

過失割合 〜修正要素その1〜

mutt.jpg緑の本』を見ると,各事故類型には基本的過失割合の下に「修正要素」というものが列挙されていますね。

 


01dog.jpg修正要素はその名の通り基本的過失割合を修正するもので,該当する事実関係が認められる場合に所定の修正率(+10や−5など)を適用して最終的な過失割合を導くことになる。


mumutt.jpg先の「右直事故」の例では,「既右折」や「徐行なし」など多数の修正要素が列挙されています。こうした修正要素に該当する事実関係があるか否かを検討するのですね。


02dog.jpgだが,機械的に適用の有無が決まるものではない。例えば,どの時点でどんな状態だったなら「既右折」と評価されるのかなど,修正要素の定義・趣旨を踏まえた詳細な検討が必要になる。


hanyaa.jpgなるほど。「夜間」が修正要素とされる類型もありますが,では具体的に季節により何時何分以降が夜間なのか,日没直後のまだ十分明るい時間帯はどうか,深夜でも街灯で明るい場所はどうなるのか,など色々な解釈がありそうです。


03dog.jpgあくまで修正要素基本的過失割合を「修正」するものに過ぎないという視点も重要だ。基本的過失割合が「20:80」の事故類型で,機械的に複数の修正要素を適用した結果が「80:20」と大逆転するような場合,果たしてこの最終評価は妥当だろうか?


aryarya.jpg基本的過失割合から大きく逸脱していて,もはや「修正」とは言えない感じがしますね。

 


01dog.jpgこのような場合,単純な修正要素の加算・減算には制限をかけるべきとの価値判断があり得る。そして,全く別の事故類型と考える,基本的過失割合自体を新たに設定する,いくつかの修正要素をまとめて「重過失」など一つの修正要素で総合評価する,などの方法とすべきではないかとの問題意識が発生するところだ。

過失割合 〜修正要素その2〜

mutt.jpgその他に修正要素についての注意点はありますか?

 


01dog.jpgある要素があっても,それは修正要素とは言えず「基本的過失割合に織り込み済みの過失」にあたるのではないか視点も大切だ。


hanya.jpgどういうことですか?

 


02dog.jpg基本的過失割合は,その事故類型で必然的に伴う過失があることを前提に定められている。例えば,多くの事故では一定の前方不注視を伴うだろうが,だからと言って前方不注視があることのみを取り出して直ちに「著しい過失」として+10%の修正要素があると評価するのは誤りだ。


aryarya.jpgそれをすると,大抵の事故で「著しい過失」の修正がなされることになってしまいますね。常に修正がされるなら,基本的過失割合が意味をなしません。


03dog.jpgそのとおり。もちろん,脇見運転など「著しい前方不注視」があれば,それは基本的過失割合では前提となっていないものだから「著しい過失」などの修正要素として評価すべきだ。一方,各事故類型に当然に付随する「軽度の前方不注視」が認められるに過ぎなければ,それは基本的過失割合の評価に織り込み済みなので,新たに修正要素として評価するべきでない,ということになる。


mumutt.jpgどこまでが基本的過失割合に織り込み済みか,どこからが織り込まれていないか,といったことだけでも大いに争いの余地がありますね。


01dog.jpg事故類型によっては,例えば「徐行していないこと」,「一時停止していないこと」を前提とした基本的過失割合ある。他にも様々なものがあり,当該事故類型での基本的過失割合修正要素それぞれの射程範囲を正確に把握することが大切で,道路交通法の趣旨や過失論の根本を踏まえた検討も必要になる。

過失割合 〜保険会社提示の過失割合の意味〜

hanya.jpg人損の解決は当分先になるので物損だけ先に示談解決することを保険会社から提案されました。過失割合は「私20:相手方80」で,20%過失相殺するとのことです。これで物損を示談したら,人損も同じ過失割合になるのですか?


01dog.jpg物損の示談書や免責証書に人損も含めた当該事故の過失割合そのものを確認する条項が入っていない限り(通常は入っていない),人損過失割合物損解決時に前提となった過失割合に拘束されず,改めて協議することができる。


mutt.jpgそうすると,物損人損とで異なる過失割合で解決することもあるのですか?

 


02dog.jpgよくあることだ。物損人損に比べて遥かに少額であることが多いので,例えば基本的過失割合が「被害者10:加害者90」などの事故類型で,人損でも同程度での解決が見込まれる場合,保険会社は物損限りで過失相殺なしで賠償してくれたりする。これは,少額の物損を早期解決するため,被害者に反発されないよう物損限りで過失割合を多少譲歩して解決することに合理性があるからだ。


mumutt.jpgそういう場合は,被害者側にも物損だけ先に終わらせる利益がありますね。では,弁護士委任前に保険会社が提示していた過失割合は,弁護士委任後も同じ過失割合を主張されるものなのですか?


03dog.jpg同じとは限らない。保険会社は弁護士委任されないことを前提に譲歩して被害者に有利な過失割合を提示している場合があり,そのようなときは弁護士委任されれば撤回される。そのような譲歩がなくても,基本的には弁護士委任されれば過失割合の協議は改めてやり直しになることが原則だ。もちろん,争いがない事案なら事前提示と弁護士委任後の過失割合の提示が同じままのこともある。


punpun.jpg弁護士委任後に,保険会社が事前提示を「なかったこと」にして,より高い被害者過失を主張してくるのはずるいと思います。


01dog.jpgそれは仕方がない。なぜなら,先に事前提示を「なかったこと」にして,より高額な賠償額を求めて弁護士委任したのは被害者側だからだ。損害費目の一部の認定額や過失割合について,弁護士委任後に逆に不利になる部分のある事案は少なくない。このとき,有利になる部分だけ事前提示からの変更を要求し,不利になる部分だけ事前提示から変更するなと主張するのは筋が通らない。その場合でもトータルの賠償額で大きく増額になるなら弁護士委任の意味は大きいのだから,全体を考えるべきだ。

過失割合 〜異なる視点での見方〜

punpun.jpg私が路外の駐車場から道路に左折進入した四輪車,相手方がその進入先車線上を右方から直進してきた四輪車で,相手車両が私の車両後部に追突しました。追突された私に過失はないに等しいと思ったのに,相手方の保険会社は私の過失が80%だと言っています。おかしくないですか?


01dog.jpg最終的な衝突態様が「追突」となった事故状況では,追突された側がそのような感情を持つことが少なくない。「進路変更車と後続直進車の事故」でも同様で,進路変更車側が自らは一方的に追突されただけだとして過失を認めないことがある。


mutt.jpg追突事故は追突された側の過失が0と聞いたのですが・・・。

 


02dog.jpg単純な追突事故なら基本はその考え方だ。しかし,元々その車線を直進していた車両と,そこに路外から左折進入した車両とでは,道路交通法上も前者が後者に優先することは明らかで,基本的過失割合は「直進車20:路外車80」とされる(『緑の本』全訂5版【148】図)。最終的な衝突態様が追突なのは結果に過ぎず,追突に至るまでの双方車両の動きや道路交通法上の優先順位等を踏まえると,この基本的過失割合が妥当となる。


aryarya.jpg私の過失が80%というのは動かしがたいのですか?

 


03dog.jpgもちろん80%とは基本的過失割合に過ぎず,修正要素の有無次第で最終的な過失割合に変動はあり得るし,路外から進入して相当の距離を直進後に衝突に至ったのであれば,「路外車と直進車の事故」というよりは「単なる追突事故」に近くなるから,路外車の過失が0となる可能性もないわけではない。


mumutt.jpgでは,私の過失が相当に小さくなる可能性もあるのですね。相手の速度も早かったように思うし,相手にも前方不注視があると思います。


01dog.jpgすべては詳細な事故態様次第だが,あまり大きな期待は持ちすぎないほうがいい。直進車の軽度の前方不注視基本的過失割合に織り込み済みだし,直進車に多少の速度違反があってもそれが15km以上30km未満なら直進車に+10の加算がされる程度だ。最終的な過失割合基本的過失割合から大きく変動する事案は比較的稀と言える。



hanyaa.jpgそれでも,追突された私のほうが高い過失にされるのは納得いきません。

 


02dog.jpg視点を変えてみたらどうか。仮に,君が直進車で相手方が路外車だった場合,相手方から「あなたが一方的に追突してきたのだからあなたの過失が100%だ」と言われて納得できるだろうか?


aryarya.jpg絶対に納得できないかも・・・。直進してきた私に十分に注意せず路外から急に進入してきた相手方が圧倒的に悪いと思います。

 


03dog.jpgその視点が持てれば良い。同じ事故でも立場を替えると自分の主張が必ずしも説得力がないと認識できることがある。もちろん「主張」としては自己に最大限有利な主張をするのは当然だし,依頼された弁護士もそのようにするが,自分が当事者であることを離れて客観的に見た場合,一般的にどのような過失割合とされるのが説得的か,自分の主張がそこからかけ離れた一方的で偏ったものではないかという視点を持っておくことは有益だ。

過失割合 〜立証責任その1〜

hanya.jpg訴訟の場合,過失割合立証責任は誰にあるのですか?

 


01dog.jpg損害賠償請求する被害者側が原告,請求される加害者側が被告となる交通事故訴訟を前提にすれば,通常は原告は損害を過失相殺せずに請求し,それに対し被告から過失相殺の主張(抗弁)がなされ,それに対し原告が反論,被告が再反論・・・という流れになる。


mutt.jpg原告が過失相殺せずに請求するということは,その段階で被告に100%の過失がある事故であることを原告が立証するということですか?


02dog.jpgそうではない。専門的な話になるが,人身事故については自賠法第3条による立証責任の転換があり,被害者である原告は基本的に事故及び損害の発生の事実と被告が加害車両の運転者・所有者・使用者等であること等を主張・立証すれば良く,被告の過失を具体的に立証する必要はないし,自らに過失がないことを立証する必要もない。これに対し,被告が自らが無責であること又は過失相殺の主張・立証をしなければならないことになる。


hanya.jpg被告がする過失相殺の主張・立証はどのようなものですか?

 


03dog.jpg刑事記録等に基づき事故態様を主張・立証する。同時に原告(被害者側)にも過失があることを評価付ける事実が主張・立証され,具体的に◯%の過失相殺を主張する,などと展開される。一般的には,「当該事故は『緑の本』の◯番の類型にあたる,その基本的過失割合は◯:◯である,修正要素としては◯◯がある,よって最終的な過失割合は◯:◯であるから◯%の過失相殺をすべきである」などと主張されることが多い。

過失割合 〜立証責任その2〜

mutt.jpg大まかな事故態様が「信号ある交差点で対向からの直進四輪車・右折四輪車が共に青信号で進入して衝突した事故」(右直事故)に争いがない場合,基本的過失割合は「直進車20:右折車80」とされていますが(『緑の本』全訂5版【107】図),そこから先の修正要素の有無は誰に立証責任があるのですか? 同図には「既右折」・「15km以上の速度違反」・「徐行なし」など多数の修正要素が列挙されていますが。


01dog.jpg修正要素の性質にもよるが,原則としては特定の修正要素があったなら有利になる側がその存在を主張・立証することになる。



aryarya.jpg立証責任って難しいです。例えばどんな感じですか?



02dog.jpg例えば,直進車側が原告(被害者)で右折車側の被告(加害者)に請求する訴訟の場合,右折車が「徐行なし」であれば,これが修正要素に認められて有利になるのは直進車側の原告だから,「右折車が徐行していなかったこと」は原告が主張・立証するべきであり,原則として右折車側の被告が「自らが徐行したこと」を積極的に主張・立証する必要はない。ただし,事実上は被告も原告への反論のために「自らが徐行したこと」を主張・立証(反証)していくのが通常だし,被告としては自分の運転態様なのだから自らの供述をもって反証することは容易だ。最終的には双方の供述の信用性や刑事記録その他客観的証拠も踏まえ,徐行していたともしていなかったとも判然としないとの心証を裁判官が抱けば,それは原告側の立証が失敗したということで,「徐行なし」の修正要素は認められないことになる。


mumutt.jpgそういう流れになるんですね。

 


03dog.jpg修正要素に該当する事実の有無の問題と,事実に争いないが修正要素にあたるか否か(過失判断に考慮すべき事実か否か)という評価の問題があることにも注意が必要だ。具体的に修正要素にあたるか否かが争点となっていなくても,事実関係さえ証拠上に出ていれば,裁判官はそれを前提に最終的な過失割合を認定し得る。もっとも,判決では基本的過失割合修正要素の一つ一つに対する判断が個別具体的に記載されるわけではなく,事故態様に関する細かい事実認定をした上で,「以上の全事情を総合すると,本件過失割合は◯:◯である」などと記載されることが多い。

過失割合・過失相殺・過失相殺率の違い その1

hanya.jpg今まで何となく同じ意味合いで使ってきましたが,過失割合過失相殺は全く同じと考えていいのですか?


01dog.jpg交通事故の各当事者の過失の程度(責任を負担すべき割合)について,全体を100%として当事者Aは20%・当事者Bは80%などと評価するのが「過失割合」の問題だ。そして,AのBに対する損害賠償請求で20%減額されることや,BのAに対する損害賠償請求で80%減額されることは「過失相殺」の問題で,「過失相殺」で用いる割合を「過失相殺率」と呼ぶ,という関係にある。


mutt.jpg単なる用語の問題なので違いを気にしなくて良さそうですね。要するに過失割合が20%とされた側は20%の過失相殺率による過失相殺減額をされる,ということですよね。


02dog.jpg通常はその考えで問題ない。しかし,過失割合過失相殺率が一致しない場合がある。

 


hanya.jpgどういうことですか?

 


03dog.jpgまず,通常の一致する場合から説明しよう。例えば,「信号ある交差点で対向からの直進四輪車・右折四輪車が共に青信号で進入して衝突した事故」(右直事故)の基本的過失割合は「直進車20:右折車80」だ(『緑の本』全訂5版【107】図)。最終的な過失割合も基本割合通りなら,直進車の「過失割合」は20%で,同時に直進車が右折車に損害賠償請求するときに用いられる「過失相殺率」も20%になり,一致する。逆に,右折車の「過失割合」は80%で,同時に右折車が直進車に損害賠償請求するときに用いられる「過失相殺率」も80%になり,やはり一致する。


mutt.jpg当たり前に思えますが,それが一致しない場合があるのですか?

 


01dog.jpgそれについては次回説明しよう。

 

過失割合・過失相殺・過失相殺率の違い その2

hanya.jpg過失割合過失相殺率が一致しないとは,どんな場合ですか?

 


01dog.jpg例えば,「信号のない同幅員の交差点における自転車と四輪車の出合い頭事故」の基本的過失割合は「自転車20:四輪車80」だ(『緑の本』全訂5版【240】図)。最終的な過失割合も基本割合通りなら,自転車の「過失割合」は20%で,同時に自転車が四輪車に損害賠償請求するときに用いられる「過失相殺率」も20%になり,一致する。


mutt.jpgそこまでは四輪車同士の例と同じですね。その続きを同様に考えると,四輪車の「過失割合」は80%で,同時に四輪車が自転車に損害賠償請求するときに用いられる「過失相殺率」も80%になりますが。


02dog.jpgところが必ずしもそうは言えない。四輪車側が自転車側に損害賠償請求するというのは,多くは四輪車の損傷の物損請求だが,稀に事故時の回避行動等で四輪車の運転者に発生した人損請求の場合もある。これらの場合,『緑の本』の基準による四輪車の「過失割合」は80%なのだが,これは直ちに「過失相殺率」も80%とすべきという結論には結びつかない。


aryarya.jpg過失割合が80%なら過失相殺率も80%にすればいいと思いますが・・・。

 


03dog.jpg四輪車同士など対等な交通用具同士の事故であれば一致させて問題ない。しかし,自転車対四輪車や歩行者対四輪車など非対等な事故では,『緑の本』は原則として「交通弱者」である自転車や歩行者側から「交通強者」である四輪車側に対する損害賠償請求時に用いる「過失相殺率」を念頭において基準を定めたものになっている。つまり,これらの基準で四輪車に割り付けられた「過失割合」は,四輪車が自転車や歩行者に対して損害賠償請求する場合の「過失相殺率」として用いることを想定したものではないので,先の例でも直ちに過失相殺率を80%にするべきとは言えない。


hanya.jpgなぜそうなるのですか?

 


01dog.jpg交通弱者側が交通強者側に損害賠償請求することを前提に,交通弱者側を保護すべき要請が強いという価値判断を交えた過失割合の定めとなっているからだ。交通強者側から交通弱者側への損害賠償請求の場合,その価値判断を取り入れる必要性が乏しいので,先の例では過失相殺率を80%より若干低くすべきという理屈も成り立つ。


mumutt.jpgなるほど,少し分かりました。

 


02dog.jpgもっとも『緑の本』に記載の過失割合には合理性があるので,こうした問題意識が持ち出されず,交通強者側から交通弱者側への損害賠償請求でも『緑の本』の基準通りの過失割合をそのまま過失相殺率として用いる場合がほとんどだし,通常はそれが妥当な結論だ。双方の損害賠償請求がある場合に過失割合過失相殺率を個々に判断するのは煩雑という事情もある。


mutt.jpgでは,あまり気にしなくてもいいんですね。

 


03dog.jpgそうだね。あくまで理屈としての問題だ。

 

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